日本の高額紙幣の廃止で1万円札がなくなる!?





2017年の秋頃から突如始まった「高額紙幣廃止」に関する議論。

1万円札が発行されなくなるとは一体どういうことなのでしょうか。

ケネス・ロゴフ教授による「日本の一万円札廃止」の提言

議論の発端は、マクロ経済学の第一人者である米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授による「日本の一万円札廃止」の提言です。

ロゴフ氏は2016年に『The Curse of Cash』という著書の中で、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)などの現金がもたらす問題を指摘し、高額紙幣を廃止することを提唱しています。

また、5~7年かけて1万円札と5000円札を廃止することで「レスキャッシュ社会(現金割合の少ない社会)」を実現することを日本に提案し、日本を「高額紙幣を廃止する最初の経済大国の候補」と位置づけ積極的な検討を促しています。

ロゴフ氏の主張によると、現金の存在により金利をマイナスにしにくいことは大きなコストとなっており、高額紙幣は日銀が景気刺激のために実施しているマイナス金利政策の足かせになりえるとのことです。

世界の流れ

日本国内にいるとなかなか気付きませんが、高額紙幣廃止は世界的な流れとなっています。

インド

2016年11月8日夜8時15分、インドのモディ首相が緊急テレビ会見を行い、翌日午前0時から高額紙幣の1,000ルピー札(約1,600円相当)と500ルピー札が法定通貨の効力を失うと宣言しました。

インドでは脱税、偽札、マネーロータリングなどの社会問題が蔓延していたという背景があり、これらを解決するために高額紙幣の廃止という政策に踏み切りました。

2種類の紙幣は、年末までに新紙幣に両替か預金しないと紙幣に法的価値がなくなるということで、人々は銀行窓口やATMに殺到し大混乱に陥りました。

新たに2,000ルピー紙幣と新500ルピー紙幣が発行されることになるため、真の意味での高額紙幣廃止とは言えませんが、新紙幣の交付においては本人確認が厳格に行われ、発行量も制限されています。

しかし、予告なしの突然の発表だったため、タンス預金をしていた女性が土地を売却して得たお金が一気に紙くずになると知り、自殺するということまで起きてしまいました。

この措置で直後こそ混乱の渦に巻き込まれたインド市民ですが、これをきっかけにモバイル決済やクレジットカードの普及が進むという恩恵がもたらされたといいます。

一方で、不正資金の撲滅に関しては効果がなかったといいます。

EU

2016年5月に欧州中央銀行(ECB)は、2018年末までに500ユーロ(約6.5万円)紙幣の発行停止を正式決定しました。

同紙幣は実社会ではほとんど流通していませんが、世界中でマネーロンダリングや犯罪に使用されているという懸念が高まっており、テロや犯罪の資金源を絶つのが狙いだといいます。

発行を停止した後も無期限で法定通貨として使用でき、ほかの紙幣や硬貨との交換が可能となる他、100ユーロと200ユーロはデザインを刷新するといいます。

ユーロ圏では200ユーロが最も高額な紙幣となりますが、こちらも一部の学者が廃止を提言しています。

アメリカ

500ユーロ紙幣の廃止決定を受け、クリントン政権で財務長官を務めたローセンス・サマーズ氏がワシントン・ポスト紙に「100ドル札を廃止する時がきた」と題する記事を掲載しました。

サマーズ氏の記事によると、『ヨーロッパ単独ではなく、50100ドルに匹敵する価値の紙幣の発行を停止する国際的な協定が必要である。このような合意は、G7や G20において近年で最も重大な協定となる。』としています。

日本でキャッシュレス化は進むか

高額紙幣廃止と合わせて進んでいるのがキャッシュレス化の流れです。

経済産業省がまとめた「各国のキャッシュレス決済比率の状況(2015年)」によると、日本のキャッシュレス化が世界と比べていかに遅れているかがわかります。

出典:キャッシュレス・ビジョン|経済産業省

最も普及が進む韓国のキャッシュレス決済比率は9割近くに達し、多くの先進国でも40~60%台ですが、日本は18.4%と世界でも珍しい現金大国となっています。

政府は、外国人観光客の消費促進のため、クレジットカードなどの電子決済を中心としたキャッシュレス化を推進していますが、なかなか普及は進まないのが現状です。

こうした状況を受け、日本では「未来投資戦略2017」において、今後10年間(2027年6月まで)でキャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とする目標を掲げています。

なぜ、日本ではキャッシュレス化が進まないのでしょうか。

その背景として、「キャッシュレス・ビジョン」では日本の社会情勢として4点が指摘されています。

1. 盗難の少なさや、現金を落としても返ってくるといわれる「治安の良さ」
2. きれいな紙幣と偽札の流通が少なく、「現金に対する高い信頼」
3. 店舗などの「POS(レジ)の処理が高速かつ正確」であり、店頭での現金取扱いの煩雑さが少ない
4. ATMの利便性が高く「現金の入手が容易」

まとめ

日本人の現金好きを考えると、すぐに1万円札が廃止されるということは考えにくいかもしれません。

しかし、キャッシュレス化の流れが加速し、現金を持ち歩く必要性がなくなった時に、高額紙幣の存在意義が薄れる時代がそう遠くない未来に訪れるかもしれません。