金融広報中央委員会が公表した「金融リテラシー調査(2016年)」により、日本の金融教育の問題点が浮き彫りになりました。
この調査は、 18 歳以上の個人のお金や金融に関する知識(金融リテラシー)や、行動の特色を把握するため、日本の人口構成とほぼ同一の割合で収集した18~79歳の25,000人を対象に行なわれた、わが国初の大規模調査です。
リテラシーとは、ある分野において基礎知識があり、それを適切に判断・応用する能力というような意味です。
日本人は損失回避傾向が強い
今回の調査でわかったことは、日本人は損失回避傾向が強いということです。
リスク性資産(株式、投資信託、外貨預金等)の購入経験をみると、いずれにも投資しない人が6割を占めています。
出典:金融広報中央委員会「金融リテラシー調査(2016)」のデータを元に作成
また、「10万円を投資すると、半々の確率で2万円の値上がり益か、1万円の値下がり損のいずれかが発生するとします。あなたなら、どうしますか。」という期待収益率+5%の投資に対して、「投資しない」と回答した人が約8割にもなりました。
損失回避傾向が強い結果、期待収益よりも損失に目が行ってしまい、「投資しない」という非合理的な判断を選びがちになります。
出典:金融広報中央委員会「金融リテラシー調査(2016)」のデータを元に作成
投資をまったくしない人の特徴として、「金融知識・判断力」に関する正誤問題の正答率が総じて低く、学校などで金融教育を受けた人の割合が低いという結果になっています。
このことから、十分な金融教育を受けていないために、金融リテラシーが欠如していて、何をすればいいか全く分からないために、投資を敬遠する人が多いのではないかと考えられます。
アメリカとの比較
今回の調査では、海外との比較ができるように、約半分の設問が、米国 FINRA(金融業界監督機構)や OECD など海外機関による同種調査と同趣旨の内容になっています。
日本(A) | アメリカ(B) | 差異(AーB) | |
金融教育を受けた人の割合 | 7 | 19 | ▲12 |
金融知識に自信がある人の割合 | 13 | 73 | ▲60 |
借り過ぎと感じている人の割合 | 11 | 42 | ▲31 |
緊急時の金銭的備えがある人の割合 | 55 | 40 | 15 |
正誤問題の正答率 | 47 | 57 | ▲10 |
出典:金融広報中央委員会「金融リテラシー調査(2016)」のデータを元に作成
アメリカと比較すると、日本は金融教育を受けた人の割合は3分の1となっており、金融知識について自信のない人も多く、正誤問題の正答率では10%下回るという結果になりました。
日本人が貯蓄好きになった理由
日本人は世界で最も貯蓄が好きな国民だと言われています。
その理由として、日本は自然災害が多く、もしもの時に備えて貯蓄をする文化だとか、日本人は元々農耕民族でお金を貯めるのに向いているとか言われたりもします。
実は、日本人が貯蓄好きとなった理由には、悲しい歴史が背景にあるのです。
戦争が原因で日本人は貯蓄好きになった
多くの人が持っている、お金儲けや投資は「悪」で「貯金は美徳」という日本人独特のお金に対する価値観は、昔の日本政府によって作られたものです。
明治になって郵便貯金が導入され、「貯金はすばらしい」「戦争のためにお金を貯めよう」「貯金こそ日本を救う!」と政府が愛国心をあおるプロパガンダを行い、戦争をする資金の確保のため、日本中の個人に郵便貯金をさせてお金を集めました。
さらに政府は、太平洋戦争の敗戦処理のための資金を確保するために「救国貯蓄運動」を展開し、貯蓄を大々的に奨励しました。
その結果、戦後の日本経済はすさまじいスピードで回復し、世界有数の経済大国になったというのは紛れもない事実です。
こうして、政府主導により「貯蓄は美徳」という思想が、日本国民に浸透していったのです。
つまり、貯蓄を推奨するために日本政府は意図的に、国民に十分な金融教育を受けさせてこなかったのです。
この点については、堀江貴文さんの著書『ゼロ―――なにもない自分に小さなイチを足していく
郵便貯金が国民に広く普及していったのは、日本が太平洋戦争へ突入していく昭和10年代のこと。
戦費調達に困った政府が「国民貯蓄組合法」を昭和16年に作り、国民に郵便貯金を強制させるようになる。
こうして集められた国民のお金が国債の償還や軍需産業への融資に充てられた。
貯蓄から投資へ
しかし、日本人は貯蓄をしすぎるようになったため、政府は一転して「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げ、投資推奨へと 舵を切ります。
何とも勝手な政府の都合で、日本国民の富は利用されてきたのです。
まとめ
今回紹介した金融広報中央委員会の公式サイト『知るぽると』では、金融リテラシークイズにチャレンジすることができます。
自分の金融リテラシーを計るためにも、一度チェックしてみてください。